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ヤマレコ

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Believe in myself!

崩れる雪と格闘し、三時間かけて急登を登り切ると、真っ白な稜線に出た。雲ひとつない空は深い青。南アルプスも富士山も鮮明だ。空気は透明で、周囲の山々はすぐそこにあり、手を伸ばせば届くかのよう。

三ツ頭まで登ると、八ヶ岳の主要な峰々が正面に並ぶ。赤岳、阿弥陀岳、権現岳。宇宙の色が透けて映った深くて濃い青空の下、雪を戴く白い秀峰たち。

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完ぺきに完全な美しい日だ。こんな日に当たることはそうそうない。

雪深い稜線を踏み抜きながら進み、中空に飛び出したようなトラバースを回り込むと、権現岳の山頂に到着する。

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山頂から少し先の縦走路分岐まで行ってみた。

ここから眺める八ヶ岳は美しい。キレットの向こうには、三ツ頭から見たよりもひとまわり大きくなった赤岳に阿弥陀岳、横岳や硫黄岳も見える。

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昨年はここまでで引き返した。ここまででずいぶん時間がかかったし、天気も崩れてきたので、ギボシへは向かわなかった。

今回は必ずギボシまで行くつもりで登ってきた。そのために昨年より早出して、暗いうちから歩き始めた。

だが、権現岳からもよく見えていたので気づいていたが、ギボシへはトレースがない。どうしようか…と躊躇した。こんないい天気の日にここまで来れたんだ。これで満足して帰ってもいいかなとも思った。数名の先行者はみな、ギボシへは向かわず下山していった。

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ここまで天気は完ぺきだった。この先も崩れることはないだろう。風は多少あるが、暴風とか爆風とかいうほどでもない。これくらいなら冬山ではそよ風だ。今日行かなければいつ行くんだっていうくらいの絶好のコンディションだ。

まっさらの稜線をじっくり観察した。それほど難しそうには見えない。雪のない時期に歩いたことはある。両側が切り立っているので高度感はあるが、通行に困難な場所はなかったはずだ。今日行かなければ、もう行くことはないだろう。やはり、ここで引き返すという選択肢はない。

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まだだれも歩いていない雪の稜線へと踏み出した。柔らかな雪にヒザまで埋まる。ヒザで止まってくれればいいが、それ以上に踏み抜くと勢いがついて斜面を滑り落ちかねない。落ちたら止まらないだろう。いちおうピッケルを握ってはいるが、柔らかな新雪なのでピッケルは効かない。いちおう持ってるピッケルはお守りに過ぎない。持ってるほうが気が落ち着くというだけだ。

さらに一歩を踏み出す。雪が崩れ足を取られる。こんなところで転ぶわけにはいかない。全身に力を入れて体制を整える。さっきまでの微風が、急に強風になったように錯覚する。ちっぽけな体を吹き飛ばそうとするかのように、横風が容赦無く吹き付ける。

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一歩、また一歩、さらに一歩。ゆっくり慎重に確実に。ここは急ぐところじゃない。遠目にはそれほど難しくはなさそうだった稜線も、いざ目の前にするとなかなか手強い。

なるべくナイフリッジの上を歩こうとするが、そうもいかない箇所もある。吹き溜まりはどこまで沈むか予想ができない。

頼りになるのは経験の蓄積のみ。経験を元にして、想像力と判断力をフル回転させる。行ける…と思う。行けるはずだ。登山に100%の安全はない。どうしたっていくらかのギャンブルは残る。だがリスク管理は重要だ。想像力を駆使して慎重に見極め、このギャンブルには勝てると判断した。あとは自分を信じるだけだ。

どうしてこんな危険を冒してまで登るのか。その答えはよく知っている。それはもちろん楽しいからに決まっている。このヒリヒリした瞬間にこそ、生きているという確かな実感が存在する。知力と体力のあらゆる全てを総動員して生き延びる自分を経験すること、生命の喜びはこの瞬間にしかない。

ギャップの大きな難しい箇所を超えると、あとは比較的なだらかな登りが山頂まで続いていた。新雪が飛ばされ氷がむき出しになっている。がっちり凍ったナイフリッジに、確実に一歩一歩アイゼンを効かせて進む。あと少し。慎重に。ゆっくり確実に。

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噛みしめるかのようにじわじわと進んで、ようやくギボシのピークに到着した。

空は青く、空気は透明だ。八ヶ岳の主峰がすぐ目の前に広がっている。振り向くと、ついさっきまでいた権現岳も見えた。あそこからここまで、たいした距離ではないのに、とても長く感じた。濃密な時間であった。

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とんがったギボシの狭い山頂は厚い氷で覆われていた。ちょっと滑るとどの方向にも落ちていきそうだ。ゆっくり休憩する場所でもないので、権現岳までもどることにする。あそこまでもどれば、あとは難しいところはない。

下りの方がはるかに高度感が増す。気を抜いて落ちないよう、最後まで慎重に。ゆっくり確実に。アイゼンを効かせて一歩ずつ行こう。自分を信じて。

 
 

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