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ヤマレコ

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雨の大崩山

朝から雨が降っていた。いや、昨夜からずっと降り続いている。
仕事を終えてスーツのまま会社を出発し、27時間かけて宮崎県まで来たというのに。

もう一度、空を見上げる。登れないような豪雨ではないが、一日歩けば確実にぐしょ濡れになり消耗するのは間違いない程度には降っている。

「登りますか?」と尋ねてきたソロの男性は、諦めて帰ったようだ。

数年前、冬に訪れたが、積雪や凍結の状況が不明で諦めた大崩山。今回は満を持してゴールデンウィークにやってきた。それがこの天気だ。明日も明後日も、九州にいるあいだの天気予報はずっと悪い。

数人の年配者のグループが準備を整えて出発した。そうこうしてるうちに、さらにいつくかのグループが登山口から山へと入っていく。

行くか。景色は期待できないけど、それでもまあいいじゃないか。これで撤退してたら、三日間どこにも登らずに終わりそうだ。

こういうときは勢いが大切だ。えい!やっ!と濡れるの覚悟で歩き出した。

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大崩山荘を過ぎ、湧塚尾根への分岐を折れると、祝子川へ出た。どうやらこれを渡らなければならないらしい。しかし、昨夜から強く降り続いた雨のせいで、川はかなり増水していた。流れも速い。いったいどこを渡ればいいというのか。

先行したいくつかのグループが少し上流を歩いていた。大きな岩を攀じ登れずに引き上げてもらったり、ふらふらと岩から岩へ飛び移ったり、かなり危なっかしい。なかなか進めないようだ。

徒渉地点にいたソロの男性は、しばらくその様子を眺めていたが、諦めて帰っていった。

危険を犯さず撤退するのは、ソロの人が多いと思う。もちろん無謀に突っ込んで事故になる人もいるが、進むにせよ退くにせよ、いずれにしてもすべての決断は自分自身で行う。パーティ登山では、なかなか自分の思い通りにはできないし、撤退の決断ができず、ずるずると進んでしまうことも多い。

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増水した流れの速い川を目の前にして、しばし逡巡したが、あの先行グループが行けるなら行けるだろと判断し、先へと進むことにした。

岩から岩へとジャンプしたり、岩を攀じ登ったりして、ようやく対岸の取付き点に着いた。ここまですでにけっこうたいへんだった。なかなかワイルドな山だ。先が思いやられるぜ。やれやれ。

雨に打たれて樹林帯を登っていく。しばらく緩やかな登りが続いたあとは、いきなりの急登になった。手を使わないと登れないほどの角度だ。登るのもつかれるが、ここを下るのはイヤだなと思いつつ、濡れて滑る登山道を登っていく。

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岩場に垂れ下がったロープを掴んで袖ダキへも登った。巻くこともできるが、いちおう登っておく。

ダキまたはタキというのは、地形を表す西日本の言葉で、屹立した岩の断崖を指すらしい。つまりここを登れば、岩の断崖の上へと出るわけだ。

濡れた岩場を登った先の岩の上から眺める風景は、完全なる灰色一色だった。まあ、予想はしていたが。本来なら、ここから奇岩の峰々が望めるはずなのだが。まだ見ぬ絶景は、心の中に思い浮かべておくことにする。

さらに先には、下和久塚への登りがあり、ここも巻くことはできたが登ってみた。そして当然、重い灰色一色の景色を見ただけであった。

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坊主尾根との合流地点に着いたときには、もう全身がぐっしょり濡れて、乾いてる部分などどこにもなかった。足元は泥まみれ、全身から雑巾の臭いが漂ってきそうだ。

合流地点から先は緩やかな尾根が続く。ようやく少しだけホッとできる。

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そうして、ほどなくして大崩山の山頂に着いた。たった1644mの山なのに、なんとも疲れる登りであった。

寒い。山頂でじっとしていると、ずぶ濡れの体が冷えてくる。まったく山登りには向かない日だ。

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まだ下山が残っている。

帰りは坊主尾根で下ることにした。

登りに使った湧塚尾根と平行した坊主尾根なので、傾斜もだいたい同じだ。登り時に下るのイヤだなと思った角度の登山道を下らねばならない。

急角度の下りに真っ直ぐ付けられた粘土質の道は、雨で濡れてやたらと滑る。真っ直ぐ立っているのは難しく、そっと足を置いただけでツルッと滑って尻もちをついてしまう。横向きになったり後ろ向きになったり低木につかまったりしながら、そろりそろりと降りていく。登るよりよけいに時間がかかる。

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坊主尾根は岩場の連続でもある。長い年月のあいだに角が取れ、丸くなった岩場が続いている。摩擦力の高い岩なので、それほど滑らないのは助かった。とはいえ、雨で濡れた岩場は怖い。失敗したらジ・エンドである。

岩場にかけられた細いロープを掴んで進む。ただ歩くより、ロープを手にして歩くほうが格段に安心感が増す。精神的なゆとりは安定した歩行にとって大切だ。ロープに体重をかける必要のない場所でも、ロープを掴んで進んだ。

ハシゴは嫌というほど執拗に連続している。岩場の登下降にハシゴを使うのは味気ないものだが、こんな天気の日なのでありがたく使わせてもらう。なにせ山頂から1000mほど下らなければならない。ハシゴで楽に標高を下げられるのは助かる。

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だが、しかし、どうやって歩いたらいいのか悩むようなところもいくつかあった。

絶壁にかけられた二段のハシゴが、絶壁の途中で途切れている。空中で終わったハシゴからは、斜め横に10メートルほどロープが張られ、その先で繋がったハシゴが地面に届いていた。なるほど、このロープを伝って…って、壁の真ん中でどうやってトラバースするんだよ…。

まずはハシゴからロープへと移らなければならない。空中で途切れたハシゴの下段で足元のロープを掴みに行くのだ。なかなかの緊張感である。

もじもじ動いてようやくロープを手にしたが、ぶら下がって横に進むわけにもいかない。ロープは安心のために軽く握るだけにして、岩場のわずかな出っ張りを頼りに、斜め下へと進んでいくしかない。下ではなく横でもなく、斜め下だ。なかなかこんな動きをすることはない。

空中ハシゴの最下段で見たときは、これは無理だろと思った。しかし、無理だと言ってては帰れない。わずかの出っ張りにつま先を載せて移動する。万が一、失敗しても、ロープを離さなければ墜落することはない。握力と腕力とロープや支店の強度が保てばだが…。いや、そんなことにならないよう、慎重に進もう。

山頂から降りてくる途中に、古びてサビの浮き出た注意喚起の案内板があったのを思い出した。

何年も放置されたままであろうその案内板には、こう記されていた。

・ひとりずつ渡りましょう
・カラビナで確保しましょう
・山に頼らない登山をしましょう
・ふざけるのはやめましょう

山に頼らない登山?

いったいそれはどんな登山を意味しているのだろう。山に頼らない登山とは? 自分はいま、山に頼った登山をしているのだろうか。

岩にへばり付き、ゆっくりゆっくりと蟹歩きして、地面まで届いてるハシゴにたどり着いた。ふぅ。

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こんなアクロバティックな動きをしなきゃいけないとこもありつつ、順調に標高を下げ、ようやく坊主尾根の取付き点まで降りてきた。

そして目の前には轟々と音を立てて流れる川…。

登りに使った湧塚尾根の取付き点への徒渉で、もうこんなとこは歩きたくないと思った。下山時の坊主尾根取付き点での徒渉は、もう少し楽なのを期待していた。しかしこれは、渡れないのでは…と思わざるを得ない流れだった。

どう見ても足を濡らさずには渡れない。増水した沢の流れは速く、白い水しぶきを上げて落ち込んでいる。その落ち込みのすぐ上が徒渉地点だ。もし流されたら、落ち込みを落ちて白泡の下に消えるかもしれない。

マジかよ…。

戸惑いも動揺もあるが、これを渡らなければ帰れない。渡るしかない。

意を決して靴と靴下を脱ぎ、流れに足を踏み入れた。

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一歩進むにつれて、深さは増し、水圧は強くなる。流されないよう足腰にしっかりと力を込める。一歩づつ確実に進み、沢の真ん中へ来た。ここが最も深い。沢の流れは太ももあたりを流れている。なんとか踏ん張って流されないようにする。流されたらすぐ先は1メートルほどの落ち込みだ。

コケの生えた石に置いた足が、わずかに滑った。ほんの少し態勢が傾いたその瞬間、水流が一気に体をひっくり返した。足元をふわっとすくわれるようにして背中から水面に倒れこんだ。

あっ、と思ったときには遅かった。ほんの一瞬のできごとであった。そして、その瞬間にじたばたもがき、水面上に出ている岩に捕まった。なんとか流されずに落ち込みの真上で止まることができた。慎重に確実に体を起こす。流されないよう岩はしっかり掴んだまま。立ち上がると全身から沢水がざーっと流れ落ちた。手に持った靴の中は、水でいっぱいだった。

そこからも慎重に少しづつ進み、ようやく対岸へ渡ってひと息ついた。靴の中の水を捨て、靴下を絞る。履いてみると、それまで雨に打たれ続けてぐっしょり濡れてたおかげで、徒渉前と比べてさほど変わりはなかった。服やズボンも同様である。

しかし、ザックに外付けしてたカメラは、完全に水没してしまった。これはもうダメかもしれない。乾かせば本体は助かるかもしれないが、内部にまで浸水してしまったレンズは厳しいだろう。

命の代償はそこそこ大きかった。

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がっくり気落ちしつつも駐車場までもどり、登山口近くの温泉で体を暖めることにした。

全身からボロ雑巾の臭いを発し、濡れて団子のようになったお札を受付で出すと、登山のときはジップロックに入れておけと、厳重注意を受けた。申し訳ありません。

そういえば朝からおにぎりとパンしか食べてない。なにか温かいものが食べたい。時間も遅く、もう食堂にはうどんしかないようだったが、それでもいい。いや、その前に体を暖めて、着替えもしないと。

最初から最後まで散々な一日であった。カメラ以外は、なんとか無事に帰りついたのがすべてである。まあ、よかったと言うしかない。

こうして、九州遠征初日は終わった。

 
 

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