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ヤマレコ

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神々の住処への困難な道のり

進まない…。

踏み出した足を雪の上にそっと置き、ゆっくり体重を移動していく。後ろにあった重心が前がかりになり、姿勢が前傾になると突然、勢いよく太ももまで踏み抜いてしまう。足を引き抜こうともがくが、いっこうに抜けないどころか、さらに深みへとはまっていく。背中に背負った20キロオーバーのザックの重みで、体が左右に振られる。雪と格闘しているうちに、トラパース気味の斜面を谷に向かってずり落ちていく。

苺平で一般ルートに出るまであとわずかの距離なのだが、そのわずかの距離が遅々として進まない。

ここまでもそれなりに荒れた道であったが、ここまで時間を取られることはなかった。

標高1650mの駐車場から1731mの甘利山の山頂までは、あっというまだった。そのあとも奥甘利山を超え気持ちのいい笹原を抜け、千頭星山までは快適な登山道であった。

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千頭星山からは荒れて急な斜面を大ナジカ峠まで下り、そこから崩落地の際の急登を登ってきた。道が悪くなるにつれて少しづつ遅れ始め、標高2400mを超えて残雪の上を歩くようになってからは、まったく進めなくなってしまったのであった。

はまり、もがき、滑り落ち、よじ登るをくりかえしても、1mも進んでいない。大ナジカ峠から苺平までのCTは2時間40分だが、すでに5時間以上が経過している。ほんとにたどり着けるのかと少々心配にもなってくる。

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しかし、ここまで来たら進むしかない。ここで撤退して来た道を引き返すよりは、南御室小屋まで行くほうがずっと距離も短いし楽なのはまちがいない。なにせ距離にしたらあとわずかなのだ。この踏み抜き地帯さえ突破すれば、あとは踏み固められた一般ルートが待っている。余裕のある行程にしておいてよかった。山でもっとも役に立つ持ち物は「時間」だ。

まずは頭上の尾根まで上がろう。尾根上は比較的平坦なので、踏み抜きはするだろうが、このずり落ちからは逃れられる。

立ち木につかまり雪まみれになって体を持ち上げ、尾根を目指して直登していく。一歩登って半歩滑り落ちる。とにかく少しでも上へと登るしかない。もはや時間を気にしている余裕はない。

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尾根の上は広かった。方向を誤らないよう慎重に進む。もっとも、一歩ごとに踏み抜くので、急ごうとしても急げない。

木々のあいだに人工物らしきものがちらりと見えた。ケルンだ。苺平のケルンだ。ようやく一般ルートにたどり着いた。

夜叉神峠からつづく道は、しっかり踏み固められていた。これなら楽に歩ける。このトレースをたどって行けば南御室小屋まですぐなのだが、辻山にも登っておくことにした。ここまで困難な道を突破して来たのだから、ピーク感のある場所まで登りたい。

辻山への登りもトレースは無かった。一歩づつ踏み抜きながら登る。しかし、ここならいつでも一般ルートへもどれると思うと気楽なものだ。

途中からルートも不明になり、方向を見定めて適当に登っていくと、大きな空の下の開けた空間へと飛び出した。

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目の前には白銀の白峰三山。進む先には観音岳が立派だ。天気も上々。やはりここまで登ってきてよかった。

だれもいない山頂を満喫する。

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時間ぎりぎりまで風景を眺め、再びノートレースの雪の山腹を小屋へと下った。夕陽に照らされた南御室小屋が見えたとき、ようやくホッとすることができた。

この日の宿泊者名簿のいちばん下に記名し、上からずーっと夜叉神と記されている出発地に甘利山と書いたとき、ちょっとだけ充実感がこみ上げてきた。

翌朝。夜明け前の空は仄かに明るく、今日も雲ひとつない快晴のようだ。前日とは比較にならない快適な登山道をぐんぐん登っていく。

森林限界を超えると、神々の世界が待っていた。

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雲海に浮かぶ富士山。朝の光に輝く北岳。眩い白砂の縦走路。青空の下でこの地を歩く感覚は、言葉では表し尽くせない。それはまるで神々の住処に足を踏み入れたような、重力から解放されたような、なんともふわふわした感じだ。

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あっというまに観音岳に登り、地蔵岳まで来てしまった。あんなに苦労してたどり着いたこの地を、まるで一瞬で駆け抜けてしまったかのようで、なんだかちょっともったいない気もしたが、あの苦労がなければ、この素晴らしい体験もないのだと思い直した。夜叉神から登っても同じ風景を目にすることはするのだが、それは同じであって同じではない。いまの自分にはすべてが輝いて見えた。

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地蔵岳からは長い長い下りを下って御座石鉱泉へ下山した。ここからデポした自転車で甘利山の駐車場へもどる予定だったのだが、ひとつだけ問題があった。

甘利山の駐車場は標高1650mもあり、標高1100mの御座石鉱泉から200m下ったあとは、標高差750mの登りが延々とつづくのだ。標高の低い甘利山から標高の高い鳳凰山へ登るのだから、帰りは自転車でぴゅーっともどれるとなんとなく考えていたが、登山口の標高は山の高さとは関係がないという、しごく当たり前の事実を思い知らされることとなった。

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駐車場は林道の峠にあたる場所にある。つまりずっと登りなわけだ。下山したはずなのに、重たいザックを背負い、自転車を押しながら林道を登って、3時間半かけて駐車場までもどった。

駐車場の直前のわずかな距離のなだらかな登りだけは、自転車にまたがり意地になって漕いで進んだ。そのおかげで、駐車場で遊んでいた家族連れの前に、颯爽と登場することができた。きっと彼らは、この人ずっと自転車で登ってきたんだと思ったに違いない。

めでたしめでたし。

 
 

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